「魚って、本当に鳴くの?」――そう思ったことはありませんか?
水の中は静かな世界だと思われがちですが、実は魚たちは“音”を使ってコミュニケーションをとっているのです。
浮き袋を使って太鼓のように鳴く魚、骨や歯をこすって音を出す魚……その方法も目的もじつに多彩。
縄張りの主張や求愛、仲間とのやりとりなど、魚の“鳴き声”には驚くほどの意味が込められています。
この記事では、魚が音を出す仕組みや、その目的、実際によく鳴く魚の具体例まで、最新の研究を交えてわかりやすく解説。
水中に広がる知られざる「音の世界」を、のぞいてみませんか?
魚は本当に「鳴く」の?
「鳴き声」は魚の世界にも存在する
「魚は鳴かない」と思っていませんか? 実は、魚の中には“音”を出してコミュニケーションをとる種類が数多く存在します。
たとえば、ニベやクエといった魚は「グーグー」「ボッボッ」といった低い音を発し、縄張りを主張したり、繁殖期に異性へアピールしたりすることが確認されています。
このような魚の“鳴き声”は、陸上動物のような声帯を使うのではなく、体の構造を活かして音を生み出すのが特徴。
鳴き声といっても、あくまで「水中で発する音」としての意味で、私たちが思い描く“鳥や犬の鳴き声”とは異なる形で存在しているのです。
人間の耳には聞こえにくい“水中音”の特徴とは?
水中では音の伝わり方が空気中とはまったく違います。水は空気よりも密度が高いため、音が速く、遠くまで届く反面、方向感がつかみにくいという性質があります。
そのため、魚たちが発する音も、私たち人間の耳では聞き取りにくいケースが多く、意識しなければ「魚は無音の生き物」と思われがちなのです。
また、水中の音の多くは低周波であり、可聴域が限られている私たちにはそもそも認識できないこともあります。
しかし近年では、水中マイク(ハイドロフォン)などの音響機器を使って、魚が確かに“音でやりとりをしている”ことが科学的にも解明されつつあります。
魚が音を出すしくみ

魚は人間のように声帯を持っていないため、音を出す方法は独特です。
主に体の一部を使った“物理的な音”を発しており、種類ごとに異なる仕組みを持っています。
ここでは、代表的な3つの方法を紹介します。
①浮き袋を使った「ドラム音」タイプ
もっとも有名な音の出し方が、「浮き袋」を使ったものです。
これは“鳴く魚”として知られるニベやクエなどに見られる仕組みで、筋肉を使って浮き袋を振動させることで「ボッボッ」「グーグー」といった太鼓のような音を出します。
この音は、鼓膜のような役割をする浮き袋に筋肉が連打することで発生し、まさに“ドラムを叩く”イメージに近いものです。
主に縄張りの主張や繁殖期の求愛に使われており、水中での存在をアピールするための重要な手段となっています。
②骨や歯をこすり合わせて音を出すタイプ
一部の魚は、自分の骨や歯をこすり合わせることで「ギシギシ」「カチカチ」といった摩擦音を出します。
この方法は、ナマズやベラの仲間に多く見られ、浮き袋を使わずとも音を発することができる点が特徴です。
こうした音は主に警戒時や威嚇時に使われ、天敵に対して「自分はここにいるぞ」と知らせたり、相手を追い払うために利用されます。
音というより“振動音”に近く、敵や仲間に対するシグナルとして機能します。
③体を震わせて“振動音”を生み出す魚もいる
特殊な例として、筋肉や体全体を震わせて音を出す魚も存在します。
たとえばアマガエルのように「ブルブル」と震える動きによって、体内の水や骨を振動させて音を生み出すのです。
このタイプの音はやや不規則で、鳴き声というよりも“衝撃音”に近いのが特徴。
仲間とのコミュニケーションというより、外敵への威嚇や驚かせる目的で使われることが多いとされています。
このように、魚たちは限られた体の構造を工夫しながら、実にさまざまな方法で音を出しているのです。
それぞれの音には意味があり、音の出し方そのものが“種の個性”ともいえるでしょう。
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魚はなぜ鳴くの?目的は意外と多彩!
魚が音を出す目的は、「鳴きたいから鳴いている」のではなく、実は生存や繁殖に深く関わる“重要な手段”として使われています。
水中では視界が限られるため、音による情報伝達は効率的で、魚たちの世界では「鳴くこと」がさまざまな役割を果たしているのです。
以下に代表的な目的を紹介します。
縄張りを守るための「警戒音」
ある種の魚は、自分の縄張りに近づく他の魚や敵に対し、音を出して威嚇します。これがいわゆる「警戒音」です。
たとえば、ナマズやハゼの仲間は、浮き袋や骨を使って「ググッ」「バチバチ」と音を鳴らし、自分の存在をアピールします。
この音は“戦う前の警告”として機能しており、「これ以上近づくな」という意思表示。
無用な争いを避けるための手段として、魚同士の関係を保つ大切な役割を果たしています。
求愛や繁殖期に出す「ラブコール」
繁殖期になると、オスの魚がメスに向けて音を出す行動が見られます。これが魚の“ラブコール”です。
特にニベ科の魚は、低く響く音を繰り返してメスを誘い、自分の存在をアピールします。
音のパターンや強さには個体差があり、まるで「魚版のプロポーズ」といえるもの。
メスはこの音を聞いて、相手の健康状態や優位性を判断すると考えられています。
つまり“音”は、子孫を残すための大切なメッセージ手段でもあるのです。
集団での合図や“仲間とのコミュニケーション”にも
魚の音は、敵や異性に対してだけでなく、仲間同士のコミュニケーションにも使われます。
群れで行動する魚の中には、方向転換や危険の共有などを音で知らせ合う例もあり、まるで「水中の合図」のように使われているのです。
特に暗い場所や濁った水中では、視覚に頼れないため、音によるやりとりはより重要に。
小さな音でもしっかり伝わる水中だからこそ、音は“声”の代わりとなり、社会的なつながりを保つ道具として活躍しています。
魚の鳴き声には、驚くほど多様で実用的な意味があります。
一見無口に見える魚たちが、実は豊かな“音の言語”を持っているというのは、驚きと同時に水中世界への理解を深めてくれるポイントです。
よく鳴く魚の代表例と鳴き声の特徴

魚の中でも特に「鳴くこと」が知られている種類がいくつか存在します。
これらの魚は、縄張りの主張・求愛・警戒など、明確な目的を持って音を発します。
ここでは代表的な“鳴く魚”の名前と、その鳴き声の特徴について見ていきましょう。
ニベやクエなど「鳴く魚」の具体例
魚の鳴き声で有名なのが、**ニベ(ニベ科)**です。ニベは「グーグー」「ボッボッ」といった太鼓のような音を出すことから、“海のドラマー”とも呼ばれることがあります。繁殖期にはこの音を使ってメスを引き寄せます。
また、**クエ(ハタ科)**も鳴く魚として知られており、浮き袋を振動させて「グォッ」と響くような音を出します。威嚇や警戒時に鳴くことが多く、その音は人間の耳にも聞き取れるほど強めです。
他にも、**ナマズ(ナマズ科)**は骨をこすり合わせて「ギシギシ」という摩擦音を、**ベラ(ベラ科)**は歯や骨を使って「カチカチ」という小さな音を出すなど、鳴き方にも多様性があります。
それぞれの魚の鳴き方はどう違う?
魚の鳴き方は、「どの器官を使って音を出すか」によって音質や大きさが変わります。
たとえば、**浮き袋を使う魚(ニベやクエなど)**は、低く響く“ドラム音”のような重厚な音が特徴です。この音は水中で遠くまで届きやすく、特に求愛や縄張り主張に適しています。
一方、**骨や歯をこすり合わせて鳴く魚(ナマズやベラなど)**は、より短く、乾いたような「キュキュ」「カチカチ」といった音を出します。これらは主に近距離での威嚇や警戒、接近を知らせるために使われる傾向があります。
また、魚によっては状況によって音の強弱やリズムを変えることもあり、まさに“音で気持ちを伝えている”ような一面も見られます。
魚の鳴き声を知ることで、単なる「泳ぐだけの存在」ではない、彼らの豊かな行動や感情の一端が見えてきます。
水族館で見かける魚も、実は静かに“声”を交わしているかもしれませんよ。
魚の鳴き声はどうやって観測・記録されている?
魚が鳴くことが科学的に解明されてきたのは、比較的近年のこと。
その背景には、水中の音を拾うための「観測機器」の進化があります。
私たちの耳では捉えきれない魚の鳴き声を、どのように観測し、記録しているのでしょうか?
水中マイク(ハイドロフォン)の役割とは
魚の鳴き声をキャッチするために使われているのが、「ハイドロフォン(水中マイク)」と呼ばれる特殊なマイクです。
これは水の中でも正確に音の波を拾えるよう設計された機器で、ダイビング調査や水中研究、さらには潜水艦の音探知にも使われています。
ハイドロフォンを海中や水槽に設置することで、魚が発する微細な音や振動をリアルタイムで録音・解析することができます。
特に低周波の音にも対応しているため、人間の可聴範囲外の“水中会話”をとらえるのに非常に有効です。
研究現場で明らかになった驚きの“魚の会話”
近年の研究では、魚の鳴き声には「意味」があることが続々とわかってきています。
たとえば、アメリカの研究チームは、ニベ類の魚が繁殖期に一定のリズムで鳴き、まるで“歌うように”求愛していることを発見。
また、オーストラリアの調査では、ハタやスズメダイの仲間が群れで移動する際、「ここにいるよ」と伝えるような短い合図音を交わしている様子も観測されました。
これらは単なる反射的な音ではなく、“意図を持った音声コミュニケーション”の可能性があるとされ、大きな注目を集めています。
魚の鳴き声は、種によって音のパターンが異なり、「鳴く時間帯」や「音の長さ」も目的によって使い分けられていると考えられています。
つまり、魚たちは“しゃべれない”けれど、“伝える”ことはできているのです。
こうした科学的な観測が進むことで、これまで静寂と思われていた水中の世界が、実はにぎやかで、情報に満ちた空間であることが明らかになってきました。
魚の“声”に耳を傾けることで、私たちの水中への理解も大きく深まっていくのです。
まとめ|魚の鳴き声は「進化した音の言語」だった

魚の鳴き声は、単なる偶然の音ではなく、**生きるために進化してきた“音の言語”**です。
視界が制限され、静かだと思われがちな水中で、魚たちは「音」という手段を使って、縄張りを主張したり、異性に気持ちを伝えたり、仲間とつながったりしています。
私たち人間には聞こえにくい音でも、水中ではしっかりと届き、意味を持っています。
鳴く魚たちは、まさに“無言の世界”における会話の担い手。彼らの「声」は、水中という特殊な環境に適応した知恵なのです。
知られざる水中の世界に耳を澄ませよう
魚はしゃべらない、というのはもはや誤解かもしれません。
彼らなりの方法で「音」を使い、思いや状況を伝えていると考えると、水中の世界が一気に生き生きとして見えてきます。
静かに泳いでいるように見える魚たちの間で、実はさまざまな“会話”が交わされている──そんな視点を持つことで、私たちの自然へのまなざしもより深くなるはずです。
魚の“声”を知ると、水族館や釣りがもっと面白くなる
魚の鳴き声について知ることで、水族館での観察や釣りの時間が今まで以上に楽しくなるかもしれません。
「この魚も鳴くのかな?」「今はどんな気持ちでいるんだろう?」といった想像がふくらみ、魚との距離がぐっと縮まります。
水中マイクなどの機器を使った音声展示を行っている水族館もあり、今後は“聴く観察”が注目されるかもしれません。
魚たちの“声なき声”に気づくことは、自然をより深く味わう一歩になるのです。
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